2013年、ある機関紙に寄稿した原稿です。
自分の政治の初心を忘れない様にここに残しておきます。
「ないものねだり」から「あるもの探しへ」。私が学生の頃から師匠と呼ばせて頂いている「地元学」を提唱されている民俗研究家の結城登美雄氏の言葉です。
右肩上がりの経済のもとでは、道路を造ってくれとか、橋を建ててくれという政治が通用してきましたが、今日の経済状況においては、やみくもにハコモノを建てたり、住民要望に手放しで応えたりするという時代はもう終わりました。スクラップ・アンド・ビルドから修復、再構成を通して、限りある財産をどのように生かしていくかという思考に立って、今あるものを活用して、宝物を探していくという必要があると思います。
そこで、となりの芝生の青さを羨むのではなく、ここにあるものを改めて見直し、工夫をしていくとういことは近代化の課程で無くしてしまったもの、忘れてしまったことをもう一度取り戻し、これからの「共同体づくり」、「まちづくり」にとても大切なことだと考え、この言葉を心に留めながら日々の活動をしております。
私は2011年の統一地方選挙で東京都府中市の市議会議員に初当選をさせて頂きました。
府中市を簡単にご説明させて頂きますと、東京都のほぼ中央に位置する多摩地域の都市であり、京王線で新宿駅から約20分、都心への交通の便も良く、「住みやすい街ランキング」の上位にランクインするとても住みやすい街です。
人口は約25万人で微増傾向、面積は約30平方km。京王線府中駅の西側にある大國魂神社とその参道であった馬場大門のケヤキ並木を中心にした、緑あふれる美しい街並みも特徴です。
市内にはサントリー、東芝、NECといった大企業の工場、また、府中競馬場、多摩川競艇場といった競争事業の施設だけでなく、刑務所や航空自衛隊の基地まであり、行政機関や医療機関も充実しております。
歴史は古く、律令時代に武蔵国の国府が置かれており、そこから国府のある場所という意味の「府中」と呼ばれるようになりました。江戸時代には甲州街道の宿場町「府中宿」として栄えていました。
また、前述の大國魂神社を中心に栄えてきたこともあり、5月の3~6日に行われる例大祭、「くらやみ祭」は関東三大奇祭にも数え上げられ、2010年には東京都指定無形文化財に指定をされ、市内外からとても愛されております。
現在の府中市は1954年、府中町、多摩村、西府村の一町二村が合併し府中市が誕生しました。来年2014年には市制施行60周年を迎えます。
私はこの府中市で2歳の頃から育ちました。
大学を卒業後、三年半ほど民間の特許事務所で働き、その後に縁あって政治の世界に入りました。国会議員の秘書として従事する中で、2009年の政権交代を迎え、これからは地方の時代であり、地域やそこに住む人たちが主役として「街づくり」を進める時代にしなくてはいけないと考え、その為には自分がアクターとして地元府中市で何か出来ないかと思い、市議会議員に立候補する決意を致しました。
沢山の皆さんが応援をして下さったおかげで、初当選をさせて頂き、現在(2013年1月現在)2年弱を市議会議員として活動をさせて頂いております。
政治の世界に入ろうと思ったきっかけは私の友人にあります。その友人は電動車椅子に乗っており、彼と街を歩くとことはとても大変なことでした。今でこそ大分改善されてはきましたが、私たちが普段何気なく歩いている道にはちょっとした坂や段差が沢山あります。「バリア」がそこかしこにあるために、彼と一緒に通ることが出来ないことが多々有ります。そこは迂回をするか、時には通行人の方に手伝ってもらい、200kgはある電動車椅子を担いでその障壁を克服することがありました。
電車で出かけるような遠いところで待ち合わせをする時には、事前にこの様なサイト(らくらくおでかけネットhttp://www.ecomo-rakuraku.jp/rakuraku/index/)を見て、駅構内の地図、経路、電車の時刻表等を事前に確認しなくてはいけません。
実際に電車に乗る時には、駅の一番端の方まで行きバリアフリーのエレベーターに乗って階下に下がるとまた遠くの方に改札があり、やっとたどり着いた改札では駅員の方の誘導を待ち、電車に乗るまで何本か乗り過ごし、やっと乗ることが出来ます。そうこうしている内に、私たちが1時間で着くところを倍の2時間は掛かってしまいます。
私たちの「街づくり」にはこういった様々な立場の視点が圧倒的に不足しているのではないでしょうか。もちろん政治は沢山の選択肢の中から最大幸福を選択することになると思いますが、だとすれば、マジョリティの「答え」を選択するだけではなく、その中でもしっかりとマイノリティの意見が反映されることが必要だと思います。
そのためには現場を見て、そこに生きる人たちの話しを聞き、その地域に合った回答をみつけていき、「私たちの街はこういう街である」という理想像を掲げ、そこに向かって進んでいくことが求められています。
誰もが「あたりまえに」生活できる「まちづくり」をしていかなくてはいけないのではないか、それこそが政治の使命であると思い、政治の世界に入る決意を致しました。
さて、私が市議会議員として現在、何を主眼として活動をしているかというと、「市民が参加をしたまちづくり」につきます。私たち市民一人ひとりが自分の街の一員として積極的にまちづくりに参加する、一部の人だけで「まちづくり」を進めるのではなく、私たち全員が主権者という重責を担い、議員は議員として、市民は市民としてそれぞれの役割の中で「まちづくり」に貢献していくことを目指しています。
市民の皆さんと私たち議員が共に手を携え、日頃からまちづくりに参加をすることでコミュニケーションがはかられ、コミュニティを創りあげていく。色々な人たちが自分たちの視点から意見を出し合い、助け合い、補い合いながらまちづくりを進めて行ける府中市にしたいと思っております。
少々特殊な例になるかも知れませんが、私が初めての選挙に出る前、東日本大震災の直後、相馬市に支援物資を届ける機会がありました。ある避難所に行った時のこと、その避難所では自治会や小・中学校の先生方、PTAの皆さん等地域の方々が行政の手の届かないところをサポートして、秩序を作り、運営がされていました。
「隣の家の子どもは怪我をしたけど、無事に避難所でお父さんと一緒にいる」、「あそこのおばあちゃんは隣の避難所に行っている」。行政が住民票と照らし合わせるよりも早くに「日常的」なネットワークと情報とを駆使して状況の把握がされていました。
震災という「非日常」でなくても、日常の中でも行政では手の届かないところはいくつもありますし、私たち市民が出来ることから先ずは率先してやっていくことで行政では出来なかったことを展開することが出来ます。
では、私たち市民一人ひとりが「まちづくり」に参加するにはどうすれば良いでしょうか?私が今関心を持っているのが、「コミュニティ・デザイン」という考え方、手法です。
「コミュニティ・デザイン」とはランドスケープデザイナー・コミュニティデザイナーの山崎亮さんという方が実践し、20以上の自治体を成功に導いた手法です。ハードのデザインをするだけでなく、「人のつながり」をデザインすること。「人と人のつながりを広げることで活力を生み出す」というものです。
例えば、島根県の海士町では、総合計画を住民の皆さんと一緒につくることで、まちづくりの担い手をつくったといいます。
外部のシンクタンクに委託をして実施内容を決めていくことが多い総合計画を住民の皆さんたち自らが議論をして作成する。その過程では、参加をした皆さんの興味、問題意識から「ひと」「暮らし」「環境」「産業」という4つのチームに分け、それぞれのチームが総合計画の中で提案した事業を個別に実施し始めます。
海士町では、地元に長く住まれている方たちとUターン組、また、Iターン組といった方たちのコミュニケーションが全く取れていなかったという問題がありました。総合計画を策定する課程の中で、そういった、それまでコミュニケーションがとれていなかった別々のバックグラウンドを持つ住民の方々を一緒に混ぜる。4つのチームのどのチームにも地元継続居住者もいれば、Uターン組、Iターン組もいる。老若男女も全て入り乱れた4つのチームを作ることで、皆同じスタートラインに立ち、チームごとにプロジェクトを遂行するという取り組みを行ったそうです。
こういった取り組みが住民同士の垣根を取り払う役割を果たして、自分たちで行政の最上位計画である総合計画を作ったという誇りはその後のまちづくりや行政への参加に対する姿勢も変わってくるという。
そこに住む住民の方自らに地域の課題や魅力を発見して頂き、自分たちの手で解決法を考えていく。お金をかけず、もともとその地域にある“資源”と人材を活用することで、持続可能な発展へと導く「コミュニティ・デザイン」は冒頭にお話しした「「ないものねだり」から「あるもの探しへ」」と通じるところがあります。
全国を見渡しても、財政が豊かな自治体は殆どありません。府中市も不交付団体ではありますが、平成24年度予算では経常収支比率が95%近くまで上がっております。そんな中で、2011年に作成された「府中市公共施設マネジメント白書」ではこの財政状況の中、さらなる財政負担が必要となることが下記のように提起されています。
「府中市の公共施設が抱える課題としては、厳しい財政状況からのコスト削減をはじめ、環境対策、安全性の確保、バリアフリー化など、様々なものが挙げられます。また、建築後
30 年以上経過した施設が多く、劣化が著しくなる時期を迎えつつあり、今後、施設の改築工事や大規模な改修工事が短期間に集中し、これら更新費用が厳しい財政状況の中で大きな財政負担となることが明らかとなりました。(府中市公共施設マネジメント白書より)」
今こそ私たちは「ないものねだり」から「あるもの探しへ」と考え方をシフトして、私たち一人ひとりが「まちづくり」に参加する時です。
よく言われますが、まちづくり、地域の活性化に必要な若者、ばか者、よそ者という三つの「者」があります。若者とは、若いエネルギー、行動力を持つ人。ばか者、これは既成概念にとらわれない、自由な発想と突破力のある人。そして、最後のよそ者とは、第三者の視点で、客観的にとらえられる人のことを指します。
古くから住む人も、新しく住み始めた人も、お年寄りも若者も垣根なく、みんなで作った「チーム府中」で、この難局を乗り越えて行く。その「つなぎ役」となれるように議員という立場を活かしたいと思っております。
「ないものねだり」から「あるもの探しへ」、そうやって地方から、府中から日本を変えていくことが「真の国民主権」につながると考え、日々活動しております。拙い文章でしたが、お読みいただきありがとうございました。